『太陽の季節』撮影中、日活は裕次郎の主演デビュー作を企画、慎太郎原作・脚本による『狂った果実』を、水の江は新人・中平康監督に任せた。裕次郎が引き受ける際に出した条件は「相手役は北原三枝」。裕次郎は高校生時代から北原三枝のファンだったのだ。

かくして『狂った果実』は、戦後派若者の無軌道な青春をセンセーショナルに描いて大ヒットした。劇中、裕次郎がウクレレ片手に甘い歌声を披露。挿入歌「想い出」である。この曲は慎太郎作詞による主題歌「狂った果実」とカップリングで、この年の8月にテイチクからレコードリリースされ、歌手・石原裕次郎が誕生した。また映画の登場人物たちや、主演の裕次郎のことを、評論家の大宅壮一が「太陽族」と命名、この年の流行語となる。

かくして1956年の夏、日本中を「太陽族映画」が席巻。敗戦から11年、この年の経済白書には「もはや戦後ではない」と記された。裕次郎の登場はまさに、映画界に新しい風をもたらしたのだ。

裕次郎と北原三枝のゴールデンコンビが出演した映画は次々と大ヒット。日活は裕次郎中心に前進していく。そうしたなか、1957（昭和32）年10月に封切られた蔵原惟繕監督のデビュー作『俺は待ってるぜ』は、このあと連作される日活アクションの原点のようなフィルム・ノワール。港町ヨコハマ、過去のある男・裕次郎と、訳ありの女・北原三枝、そして二谷英明の悪役。良い意味で日本映画ばなれしたムードは、裕次郎の歌声の甘さと相まって、その後の日活カラーを決定づけた。「あぶない刑事」へと続く、日本のアクション映画、ドラマの舞台がヨコハマなのは、『俺は待ってるぜ』の影響大である。

空前の裕次郎ブームの引き金となったのが、1958（昭和33）年の正月作品として、娯楽映画のマエストロ・井上梅次監督が手がけた『嵐を呼ぶ男』。ライバル側の計略で手を怪我させられたドラム奏者・裕次郎が、ドラム合戦で、咄嗟にマイク片手に「おいらはドラマー、やくざなドラマー」と歌い出す。これぞ娯楽映画の醍醐味！ この主題歌「唄うドラマー」は当初、宣伝用のフォノシートのみで頒布されたが、年が明けて、テイチクで急遽レコーディングして「嵐を呼ぶ男」として臨時発売。記録破りの大ヒットとなる。

また裕次郎映画を25作演出することになる、名コンビの舛田利雄監督と初めて組んだ『錆びたナイフ』（1958年）も、「俺は待ってるぜ」同様、裕次郎のレコードヒットを主題歌にしたアクション映画だった。

少し後になるが、裕次郎がデビューして九年目、昭和40（1965）年には、石原慎太郎の原作を舛田利雄が映画化した『青春とはなんだ』が作られた。アメリカ帰りの型破りな英語教師・野々村健介（裕次郎）が、古い因習の残る地方の高校に新しい風を巻き起こす。この作品はすぐに日本テレビと東宝でドラマ化され、東宝の夏木陽介主演で同名ドラマ化される。その後、竜雷太、浜畑賢吉、村野武範、中村雅俊が熱血教師を演じる「青春学園ドラマ」シリーズのきっかけは裕次郎映画だった。余談だが「青春学園」シリーズの日本テレビのプロデューサー・岡田晋吉は、1972（昭和47）年、青春アクションドラマとして企画した「太陽にほえろ！」のボス役を、裕次郎にオファーすることとなる。

さて話は少し戻る。1958（昭和33）年の空前の「裕ちゃんブーム」の最中、裕次郎は会社からのお仕着せの企画には満足できなかった。「自分はこのままでいいのだろうか？」「俳優は男子一生の仕事なのか？」と疑問を抱いていた。1961（昭和36）年1月、新婚間もない、まき子夫人（北原三枝）と出かけたスキー場で、全治８ヶ月の大怪我を負ってしまった裕次郎は、病院のベッドで「自分が納得する映画をプロデュースしたい」と独立プロダクション設立への夢を抱く。それから二年後、1963（昭和38）年1月、石原プロモーションを設立することとなる。

※注１：二枚目俳優として人気を博した阪東妻三郎の愛称

「映画・チャンネルNECO」では「石原裕次郎 昭和太陽伝説 PART2　裕次郎と石原プロモーションの挑戦」を掲載！